世界初のED治療薬シルデナフィル
シルデナフィルとは、勃起不全(ED:Erectile Dysfunction)の治療に使われる勃起不全治療剤です。正式名称はシルデナフィルクエン酸塩(Sildenafil Citrate)。ファイザー社によって開発され、現在はヴィアトリス製薬会社へと製造販売移管されています。
世界で初めてEDに対する改善効果が認められ、1998年にシルデナフィルを有効成分としたバイアグラが承認・販売され始めました。世間一般にも広く普及し、現在では世界130ヵ国で使用されています。多くの方に長年利用され続けているバイアグラは、ED治療薬の代名詞とも言える医薬品となっています。
シルデナフィルは当初、狭心症の治療薬として研究・開発が進められていました。しかし、狭心症の治療薬としては思ったような成果が得られず、開発が中断されることになりました。その際、被験者の多くから服用前よりも勃起機能が改善していることが伝えられました。この意見を参考に改めて勃起不全治療を目的とした研究・開発が行われた結果、世界初のED治療薬バイアグラが誕生しました。
そんなシルデナフィルの効果や仕組みなど基本的な情報を解説します。
シルデナフィルの効果と働き
シルデナフィルは、心因性ED、器質性ED、混合性EDといずれの症状であっても効果を発揮します。
EDは加齢や生活習慣病、精神的なストレスなど様々な要素が原因となりますが、多くの場合で男性器の血流不足という仕組みに収束します。
男性器の血流が不足することで勃起が起きない、硬さが維持できない、挿入中に中折れするといった症状が起きるのです。
シルデナフィルの血管を広げる働きは、男性器の血流を促進するのでどの原因なのかに関わずEDを解消できます。
シルデナフィルの血管を広げる仕組み
シルデナフィルは、海綿体の血管を収縮させる酵素PDE-5(5型ホスホジエステラーゼ)を邪魔して効果を発揮します。
勃起は、性的な刺激を受けると分泌される物質cGMP(環状グアノシン一リン酸)が増えることで起こります。cGMPの働きで男性器の筋肉が緩まり広がると血管に血液が流れ込んで勃起します。その後、cGMPを分解するPDE-5の働きで血管が収縮し、勃起は治まります。
EDの人は、加齢や生活習慣病、精神的なストレスなどの原因からPDE-5の量が増えています。過剰な働きで必要なcGMPまで分解するため、血管の広がりが維持できず、勃起が萎えたり中折れします。
シルデナフィルは、過剰なPDE-5の働きを邪魔することでcGMPの量を維持します。その結果、血管の広がりが維持されて力強い勃起が起こります。
このような働きを持つシルデナフィルは、PDE5阻害薬に分類されています。
シルデナフィルを使った72%がEDを改善
シルデナフィルのEDに対する有効性は、日本国内で行われた臨床試験で確かめられています。
シルデナフィルの含有量が異なる25mg、50mg、100mgの3種類の錠剤とプラセボ錠を用意し、グループごとの改善率を比較する検証が行われました。
プラセボ錠を使用したグループの改善率が15%だったのに対して、25mg錠のグループでは58%の改善率、50mg錠と100mg錠のグループでは共に72%の改善率となりました。この結果からシルデナフィルのEDに対する有効性がより明確に確認されました。
シルデナフィルはED治療以外にも使われている
シルデナフィルはED治療薬としてだけでなく、肺高血圧症の治療薬としても承認を受けています。
肺動脈性肺高血圧症は、cGMPとPDE-5は深い関わりがある疾患です。
シルデナフィルがPDE-5を阻害することでcGMPを増やして症状を緩和します。
肺高血圧症の治療薬としてはレバチオという名称で承認され、使用されてきました。
シルデナフィルはED治療以外の分野でも活躍する成分なのです。
シルデナフィルの副作用
シルデナフィルの主な副作用は、ほてりや紅潮、頭痛などの症状です。シルデナフィルの血管拡張作用に伴う症状で、頭部や食道など男性器以外の場所に作用すると起こります。
その他には、胸痛、動悸、頻脈、めまい、傾眠、悪心、胃腸障害、口渇、消化不良、腹痛、鼻炎などの副作用も報告されています。
いずれの症状も血管が広がったり、血流が促進されることで起きている症状です。一時的な症状なのでシルデナフィルの分解に合わせて自然と症状が解消されます。
軽度な症状がほとんどなので過剰に心配する必要はありません。しかし、症状が重いと感じる時は、無理せず服用を中止して医師に相談しましょう。
シルデナフィルの禁忌事項
シルデナフィルには同時に使用すると危険性から併用禁忌に指定されている医薬品もあります。以下の項目に当てはまる医薬品とシルデマンを同時に使わないようにしてください
- 硝酸剤・NO供与剤(ニトログリセリン、亜硝酸アミル、硝酸イソソルビド、ニコランジル等)
- アミオダロン塩酸塩(アンカロン)
- sGC刺激剤(リオシグアト)
シルデナフィルは、狭心症や心不全の治療に使われる硝酸薬やNO供与剤と併用できません。これらの薬と併用すると降圧作用が増強し、急激な血圧の低下を引きおこすリスクがあります。該当する治療薬を飲んでいる方は、シルデナフィルを決して使用しないでください。
アミオダロン塩酸塩との併用では、QTc延長作用の増強がリスクとして考えられています。sGC刺激剤との併用ではcGMPの増強により低血圧のリスクが高まります。
また、以下の項目に当てはまる方は、危険性から使用が禁忌とされています。決して使わないように注意しましょう。
- シルデナフィルに対し過敏症の既往歴のある
- 硝酸剤や一酸化窒素(NO)供与剤を投与している
- 心血管系障害がある
- 重度の肝機能障害がある患者
- 低血圧、または治療を行っていない高血圧がある
- 脳梗塞・脳出血や心筋梗塞の既往歴が最近6ヵ月以内にある
- 網膜色素変性症患者